「SESはダメ」って言う前に、ちょっと落ち着こうか
最近、SNSやYouTubeで「SESはやめとけ」「SES業界は地獄だ」なんて言葉をよく見かける。
確かに、SES(システムエンジニアリングサービス)には課題も多い。現場ガチャ、単価の低さ、キャリアの見えにくさ――挙げ出したらキリがない。
でも、一方でSESでスキルを磨き、キャリアを積み上げているエンジニアもたくさんいる。
「SES=悪」というラベルを貼ってしまうのは、ちょっと乱暴じゃないだろうか。
この記事では、SESを一概に否定する風潮にモヤモヤしているエンジニアのために、「SESの本質」と「そこでどう立ち回るか」を冷静に考えてみたいと思う。
読んだあとには、きっとSESという働き方をもう少しフラットに見られるようになるはずだ。
まず結論から言おう:「SESが悪い」んじゃない
結論から言うと、SESが悪いのではない。
悪いのは、「環境を見極めずに飛び込むこと」と「自分の成長を他人任せにすること」だ。
SESは仕組みのひとつに過ぎない。
むしろ、うまく活用すれば、短期間で多様な開発現場を経験し、技術もマネジメントも吸収できる可能性を秘めている。
ただし、そのメリットを享受するには、冷静な観察眼と戦略的な行動が必要だ。
「SESは搾取構造だ」と言う人もいるが、それは一面にすぎない。
プロジェクトを統括するSIerのマネジメントが機能していなかったり、契約条件が不透明だったりするケースがあるのは事実だが、すべてのSES現場がそうではない。
SESの世界には、しっかりスキルを伸ばせる環境も多く存在する。
SESをめぐる誤解と現実
「SES=下請けで終わり」ではない
SESを「客先常駐=奴隷労働」と決めつける声もあるが、それは極端だ。
確かに、契約上の立場は下請けに近いが、エンジニアの価値は契約形態ではなくスキルと信頼で決まる。
あるSESエンジニアは、金融系システムの案件で5年間現場を支え続け、今ではクライアントのリーダーから直接相談を受ける存在になっている。
契約上はSESでも、実態は「社外の信頼できるメンバー」だ。
このようなケースは決して珍しくない。
データで見るSESの実態
経済産業省の「IT人材白書(2023)」によると、国内ITエンジニアの約35%がSES契約に関わっている。
つまり、SESがなければ日本のIT業界は回らないということだ。
特にエンタープライズ系や公共案件では、SESがインフラ的な役割を果たしている。
| 契約形態 | 割合(2023年推定) | 主な業務領域 |
|---|---|---|
| 自社開発 | 約25% | Webサービス、スタートアップ系 |
| 受託開発 | 約40% | SIer、企業システム開発 |
| SES | 約35% | 金融、医療、公共、製造など |
この数字を見ると、「SESは時代遅れ」どころか、業界を支える重要な仕組みの一つだと分かる。
SESが叩かれやすい理由
では、なぜSESはここまでネガティブに語られがちなのか?
理由はいくつかある。
- 中間マージンが多段階になり、単価が下がりやすい
- 現場によっては教育体制が整っていない
- プロジェクト選択の自由度が低い
- スキル評価が曖昧で、昇給につながりにくい
つまり、「仕組みが悪い」のではなく「運用が雑」なのだ。
この構造を理解せずに「SESは地獄」と叫んでも、何も変わらない。
どう立ち回ればSESを“使いこなせる”のか
1. 案件選びを妥協しない
SESで最も重要なのは「どの現場に入るか」だ。
自分のスキルを活かせる、あるいは伸ばせる現場を選ぶことが何より大切。
営業担当に丸投げしてはいけない。自分の希望条件を明確に伝えよう。
# 例:営業担当への伝え方 希望言語:Java, PHP 開発フェーズ:基本設計~テスト 現場の雰囲気:チームでレビュー文化がある環境希望 単価レンジ:●●万円以上
営業担当は魔法使いではない。
自分のキャリアの舵取りは、自分で握るしかない。
2. 現場ごとに“学びのテーマ”を決める
SESの強みは、さまざまな現場を経験できること。
だからこそ、現場を「転職の練習場」ではなく「スキルアップの修行場」として捉えよう。
たとえば――
- A社:チーム開発の進め方を学ぶ
- B社:テスト自動化を実践する
- C社:クラウド環境の構築を経験する
こうやってテーマを設定しておくと、どんな現場でも自分の血肉になる。
環境に流されるだけの“派遣エンジニア”から、“成長をデザインできるプロ”に変わる。
3. マージン構造を理解して交渉する
「マージンで搾取されてる!」と嘆く前に、まずは仕組みを理解しよう。
SESの契約構造は多重になりがちだが、透明性の高い企業も増えている。
自社の取り分や契約内容を正直に説明してくれる会社なら、信頼できる。
単価を上げるには、「市場価値をデータで示す」のが効果的だ。
# 単価交渉の材料例 ・直近3案件でリーダー経験あり ・AWS認定資格を取得 ・平均残業10h以下の高パフォーマンス
このように具体的な実績を提示すると、営業も動きやすくなる。
「SESだからできない」は思い込み
SESの現場では、「どうせ自社開発じゃないし」「仕様は決まってるから」といった言葉をよく聞く。
でも、視点を変えれば、改善提案や自動化スクリプト作成など、できることはいくらでもある。
小さな工夫を積み重ねることで、現場の信頼を得て、次の案件にもつながる。
SESという立場を「制限」ではなく「挑戦の舞台」として捉え直すことができれば、キャリアは一気に開ける。
まとめ:SESを冷静に見よう
SESという働き方には、確かに課題もある。
だが、それは業界構造の問題であり、すべての現場が悪ではない。
SESを「避ける対象」にするのではなく、「自分の成長を試せる場所」として捉えると、見える世界が変わる。
重要なのは、「どこで働くか」よりも「どう働くか」だ。
- 案件は自分で選ぶ
- 現場ごとに学びのテーマを決める
- 実績をデータで示して交渉する
SESを通して学んだ経験は、どんな働き方にも応用できる。
もし今SESで働いていてモヤモヤしているなら、一度立ち止まって考えてみよう。
「SES=悪」という単純な構図から抜け出したとき、あなたのキャリアはもっと自由になる。

